リヨンの人気ショコラティエ “Bernachon”の苦い思い出
たくさんのパティスリー、ショコラティエの名店がひしめき合うリヨン市街。その中でも特に人気店であるのが、ベルナション。
平日でもたくさんの人で賑わう。
リヨンに住んでいる2ヶ月の間に、ベルナションを2回訪れた。1度目はこのお店を、シェアメイトに教えてもらい、チョコレートはもちろんのこと、パフェは絶品だよ!と聞いて楽しみにしていたものだった。
チョコレートの口溶けが、今までに食べたことのないくらいに一瞬だった。ちょっと高価だけど、美味しいチョコレートを食べれる場所!お気に入りの店になった。
2度目にベルナションを訪れたのは、とても気分の沈んだ時だった。
フランスに来て4ヶ月、リヨンに住んで約3週間、仕事を始めて2週間。やっと見つかったその仕事を、辞めた日だった。
初めてのフランスの厨房は、期待していたものとは大きく違っていた。
“きれいな環境からきれいな料理が生まれる” と口酸っぱくして言われていた日本での修行時代とは打って変わって、そのレストランの厨房はとても汚かった。
作業台を拭く布巾などは元々なく、排水溝にはいつのものかわからないような鶏の骨が転がっていた。自分のポジションが片付かなくても、時間が来れば颯爽と帰ってしまう。
そこにあった薄汚れた布巾は、歴代の日本人の料理人が買って持って来ているものらしい。誰も掃除をしないから、そこはしなくていいんだよ!という言葉も衝撃的だった。
時間通りに来ないというのはフランスでは当たり前、というのも初めての経験でちょっとびっくりだった。遅れても謝ることもなく、次の日も来ない。でも仲間にも寛容で、大体の出来事は “気にしなくていいよー!” で済んでしまう。
仕事の後にはみんなでビールを飲んだり、クラブに遊びに行ったり。友達としては、イイ奴なんだけど。
正直に、仕事が面白くなかった。
もしこの時間にもっと、余裕があったら。少し “ガマン” をして働いてみたと思う。でも限られた1年という時間。この気持ちを抱えて経験をするのは、やっと見つかった仕事を2週間で辞めること以上にもったいなく思えた。強くなるために来たのではなく、経験がしたくてここにいるんだ。ここで頑張るのは違うんじゃないか。そう思った。
シェフは日本人を好んでいたけど、真面目でおとなしいところが一番なんじゃないかと思ってしまった。言葉が分からないから言えない、仮に分かっても文句を言わず働く。そんな日本人は貴重なんだと思った。
月曜日の朝、休み明けにいつも通りに出勤をして、シェフに辞職の意思を表した。
就職のときも契約書が必要だし、辞職のときにも沢山の書類に後日サインをした。それでも後日、2週間分の給料はしっかり支払われた。
そんな日の昼、気を取り直すように行ったのがベルナション!
さーこれからどうしよう!!!
自分の決断に後悔のないよう、残りの約8ヶ月。切り拓いていかなければ。
元気になりたいとき、裏切らないのは甘いもの!そんな思い出のショコラティエ、ベルナションとなった。